「どうしよう。」と感じているなら、それは正常な反応です。
ただ、その感情のまま動くかどうかはまた別の話です。過去5回の有事ショックのデータと、信用取引・レバレッジを抱えている場合の具体的な判断基準を整理します。
著者:槙野翔 | 資産運用の情報メディア 📅 2026年3月更新
| ① | 今回の下落は「有事ショック型」か「金融危機型」か——その違いが回復速度を左右する |
| ② | 過去5回のショック後に「パニック売り」した人は正しかったのか、データで検証 |
| ③ | 現物保有者・信用取引保有者・レバレッジETF保有者、それぞれの判断軸 |
| ④ | 「損切りすべき状況」と「持ち続けてよい状況」を分ける3つの問い |
第1章 まず、「下落の性質」を見極める
株価が急落したとき、最初にすべきことは「売るか持つか」を決めることではありません。「これはどういう種類の下落か」を確認することです。
歴史的に見ると、株価の大幅下落には大きく2つのパターンがあります。
| タイプ | 主な原因 | 底打ちの目安 | 回復の速さ |
|---|---|---|---|
| 有事・外部ショック型 | 地政学リスク、テロ、天災 | 事態の鎮静化・見通しが立つ | 比較的速い(数週間〜数ヶ月) |
| 金融・構造危機型 | 金融機関破綻、バブル崩壊 | 不良債権・信用収縮の解消 | 遅い(数年単位になることも) |
今回の中東有事を起点とした下落は、前者の「有事・外部ショック型」に分類されます。実体経済そのものに構造的な傷がついているわけではなく、地政学リスクの不確実性に対する市場の反射的な反応が主体です。
ただし、有事型でも「ホルムズ海峡の長期封鎖」など事態が長引けば、原油高→物価上昇→企業業績悪化という二次的な経済ダメージが加わります。「短期的な有事ショック」で終わるかどうかは、今後の情勢次第です。
第2章 過去5回の有事ショック後に「売った人」は正しかったのか
感情を脇に置いて、データを見ます。
| ショック | 日経平均 最大下落 |
底打ちまで | 高値回復まで | 性質 |
|---|---|---|---|---|
| 湾岸戦争(1990〜91年) | 約▲48% | 約2年 | 長期低迷※ | 有事+バブル崩壊が重複 |
| 9.11テロ(2001年) | ▲6.6%(翌日) | 数週間で一旦回復 | 数ヶ月 | 有事型(ITバブル崩壊と並走) |
| ブラックマンデー(1987年) | 約▲18% | 16営業日 | 約5ヶ月 | 外部ショック型(先物主導) |
| 東日本大震災(2011年) | 約▲16% | 数日で底打ち | 数ヶ月〜1年 | 有事型(比較的短期) |
| コロナショック(2020年) | 約▲30% | 約1ヶ月 | 約6〜7ヶ月 | 外部ショック型(迅速な財政出動) |
金融・構造危機が同時に起きていない「有事型」ショックでは、最も底値に近い局面で売った人は、多くの場合、後悔する結果になっています。
ブラックマンデーは5ヶ月で元値に戻り、コロナショックは6〜7ヶ月で回復しました。パニック売りをした人は、その後の上昇を取り逃がしました。
湾岸戦争のケースは、バブル崩壊という構造的危機が同時進行していたため、「有事が終わっても戻らなかった」という結末でした。現在の相場環境が、単なる有事型なのか、それとも何らかの構造的な問題を抱えているのかを見極めることが欠かせません。
第3章 「売るべき」状況と「持ち続けてよい」状況——3つの問いで仕分ける
「歴史的にはパニック売りは損」という事実はわかった。では、自分はどうすべきか。次の3つの問いに答えてください。
今、信用取引・レバレッジ商品を保有していますか?
|
「はい」の場合——優先度:高
信用取引には「追証(おいしょう)」という仕組みがあります。担保維持率が20%を下回ると*、期日までに追加入金か建玉の強制決済が行われます。レバレッジをかけている場合、株価の10〜20%下落が、投資資金の30〜90%以上の損失に直結することがあります。「時間」を味方にする前に、資金が尽きるリスクを先に確認してください。 *証券会社により異なる |
「いいえ」の場合——現物のみ
現物株の含み損は、損切りしない限り「損失は確定しません」。時間が解決する可能性が高い有事型ショックでは、保有継続が一つの合理的な選択肢です。ただし次の問いも確認を。 |
この資金は「5年以上使わないお金」ですか?
投資の時間軸が結論を変えます。
|
5年以上使わない資金
有事型ショックの多くは数ヶ月〜1年で元値圏に戻っています。持ち続ける選択肢を持てます。 |
|
1〜2年以内に使う可能性がある資金
回復を待てない可能性があります。部分的に整理し、流動性を確保しておくことが現実的な場合があります。相場の回復より、生活上の資金需要の方が先に来るリスクを無視しないでください。 |
「ここから構造的に悪化する」根拠が、あなたにありますか?
売るという行動には、「今より安くなる」という予測が前提として必要です。
「怖いから」「不安だから」は感情であり、予測ではありません。一方、「ホルムズ海峡が6ヶ月以上封鎖される可能性が高い」「日本企業の業績見通しが大幅に下方修正されている」「金融機関のバランスシートに問題がある」といった根拠があるなら、それは予測です。
感情で動く売りは「高値で持ちこたえ、底値で売る」という最悪の結末に向かいやすいです。根拠のある売りは正当な判断です。
第4章 信用取引・レバレッジ保有者が今すぐ確認すべきこと
現物株だけを保有している方は、基本的に「時間を味方にする」という選択肢が残っています。問題は、信用取引やレバレッジETF・投資信託を保有している場合です。
信用取引では、証券会社に預けた担保(保証金)に対して、その約3倍までの取引ができます(委託保証金率30%)。ただし、株価が下落して含み損が拡大すると、担保維持率が低下します。
維持率が20%を下回ると「追証」が発生し、期日(多くは翌々営業日)までに追加入金か建玉の返済が求められます。対応できなければ、証券会社が強制的に全建玉を決済します。
保証金30万円で約100万円分(3倍)の信用買いをした場合、株価が約10%下落するだけで含み損は10万円となり、担保維持率は約20%に。さらに下がれば追証が発生します。現物取引では同じ30万円でそもそも100万円分は買えないため、信用取引は「スピードが速い分、リスクも速い」という性質を持ちます。
| 順 | 確認内容 | なぜ重要か |
|---|---|---|
| 1 | 現在の委託保証金維持率 | 追証が発生するかどうかの基準(多くの証券会社で20%が追証ライン) |
| 2 | 株価がいくら下がると追証になるか | 追証ラインを事前に計算しておくと「あとどれだけ余裕があるか」がわかる |
| 3 | 追証が発生したとき、入金できる現金があるか | 現金がなければ意志と関係なく強制決済される。底値付近での強制売却は最悪のシナリオ |
| ! | 二階建て取引になっていないか | 担保にしている株と信用買いした銘柄が同じ場合、株価下落で担保価値と建玉の両方が同時に毀損する「二重のリスク」が発生する |
信用取引と異なり、レバレッジETFは追証が発生しません。ただし「値動きが日次リターンの2〜3倍」という仕組みの性質上、下落相場が続くと逓減効果(トータルの下落幅が2〜3倍以上になる)が発生します。
例えば「日経平均レバレッジ×2」のETFは、日経平均が10%下落すると約20%下落しますが、その後10%戻っても元値には戻りません。急落相場が長期化すると基準値との乖離が拡大する点を理解したうえで保有判断を行ってください。
第5章 「売らない」を選ぶなら、何を確認するか
「持ち続ける」という判断は、「何もしない」ではありません。急落時に確認すべき3つの観点があります。
| 確認項目 | 確認の内容 |
|---|---|
| ポートフォリオの集中度 | 石油化学・電力・航空など原油高の打撃を受けやすい業種に集中していないか。集中していれば、下落が長引くリスクがある |
| 事態の進展をどう追うか | 「ホルムズ海峡の状況」「イランと国際社会の外交交渉」「原油先物価格の動向」——この3点は、事態の深刻度を測る主要指標。毎日でなくてもよいが、週1回は確認したい。 |
| 「撤退条件」を決める | 持ち続けると決めたうえで、どういう状況になったら考えを変えるかの条件(例:「ホルムズが3ヶ月以上封鎖されたら」「業績予想が2割以上下方修正されたら」)を事前に決めておく。感情が高まったときの判断基準になる。 |
急落相場の終盤には、追証が発生した信用買い投資家の強制決済が集中することがあります。これが「セリングクライマックス」と呼ばれる状態で、企業の実態価値とは関係なく、資金繰りの都合だけで株が売られます。
一般的に、「信用評価損益率」が−20%付近に達するとこうした強制売却が集中しやすいとされています。これが底値圏を形成する一因です。ただし、底値を正確に見極めることは誰にもできません。
まとめ——判断の前に、立場を確認する
| 現物のみ、5年以上使わない資金 | 有事型ショックなら「持ち続ける」は合理的。ただし事態の進展は追う |
| 現物のみ、1〜2年以内に使う可能性あり | 資金需要とのバランスを見て、一部整理も選択肢に入れる |
| 信用取引保有、追証ラインに近い | まず維持率を確認。入金できる現金がなければ、自分で損切りする選択も強制決済より能動的な判断 |
| レバレッジETF保有 | 追証はないが逓減効果に注意。長期下落相場では損失が加速する仕組みを理解したうえで判断 |
「今すぐ売るべきか」という問いに、万人共通の答えはありません。あなたの保有形態・資金の性質・事態への見立て——等が組み合わさって、初めて判断が生まれます。
急落相場のなかで最もコストが高い行動は「感情で動くこと」です。数字と条件を確認し、自分の状況に合った判断をしてください。
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※本記事は情報提供を目的としており、特定の銘柄・金融商品への投資を勧誘するものではありません。投資の最終判断は、ご自身の責任においてお願いします。


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